株の売買には、さまざまなやり方があります。
また、やり方を分類する視点(基準)も多岐にわたります。
そのなかから今回、「うねり取り」という古典的な手法を紹介します。
「古典」といっても古くさいわけではありません。
市場の基本的な構造は同じですから、普遍的な方法を見いだすことも難しくないのです。
歴史ある売買法の発想が、多くの個人投資家に必ず役立つと思います。
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Contents
前編 すべてを超越する「うねり取り」
1.うねりとは自律的な上げ下げ
うねり取り──。
なんとも泥くさい言葉ですが、やることは実に単純なので、現在あなたが、どんなやり方をしていても、一度は触れてほしい考え方、トレード哲学です。
企業が成長すれば、企業価値も高まって株価は上昇します。
例えば、アメリカの著名投資家ウォーレン・バフェット氏は、もともとの企業価値、ビジネスモデル、経営者の資質などを見て株を長期に保有することで資産の増加を図ります。
でも、そういった企業価値(内容)の変化がなくても、株価は動きます。もちろん、短期の値動きはとりとめのないものですが、これが数カ月の期間にわたると、多くの投資家がチェックする「トレンド」を見いだすことができます。
ズバリ、3カ月あるいは6カ月のトレンドを、「うねり」と呼んでいます。
背景には株式市場全体の動きもありますが、それを含めて、理屈ではカンタンに説明できない「自律的な上げ下げ」で、この波を取りにいくのが「うねり取り」なのです。
2.数カ月間の変動を狙う心地よさ
デイトレードのような超短期売買では、腕自慢のプロトレーダーたち、百戦錬磨の証券会社ディーラーたち、そして、目に見えない速度で注文を出しまくるコンピュータプログラムとガチンコ勝負をしなければなりません。
だから、よほどの適性がないかぎり、おすすめしません。
といって、ウォーレン・バフェット氏のような長期投資にも、企業そのものを分析する特別な知識や判断能力が求められます。これはこれで、難易度が高いのです。
でも、数カ月単位の変動ならば、前項で「自律的」と述べたように、理由なく適度に上げ下げする状況が相手なので、個人投資家にとって、なかなか取り組みやすい方法といえます。
3.日銭を稼ぐプロのトレード
冒頭で、うねり取りという手法を「古典的」と表現したとおり、昔の相場師が好んで実践していた方法です。
市場で取引される株は、上場企業の持ち分です。
企業はみな、利潤を追求します。
だから、収益と成長を期待して“買って保有する”ことで、平均的にはプラスになると計算できます。ですが、前述した難易度だけでなく、成果を出すのに年単位の時間を要することも問題です。
生活費を稼ぐのが目的のプロ相場師たちが、「日銭(ひぜに)を稼ぐ」目的で実践するには、うねり取りが最も適しているのです。
この部分は、兼業の個人投資家が実践するときのやりやすさ、心地よさにも通じています。
人知れず、自律的な上げ下げに乗ってコツコツ儲ける──いぶし銀の職人トレーダーというイメージですね。
4.うねり取りでは銘柄を固定する
株式投資、トレードは、大切な資産を投じる行為で、ひとつの事業といえます。
ただし、やはり生身の人間ですから、モチベーションを維持するうえで「相場の楽しみ」といった要素も大切でしょう。
多くの個人投資家が、銘柄を入れ替える売買を行います。
その銘柄さがしが、最大の楽しみかもしれません。
あるいは、銘柄情報、当たる予測をさがすことが楽しみなのです。
でも、銘柄さがしによって、雑多な情報に翻弄されているのも事実でしょう。
ときには、くだらない予測情報に振り回されて売買の流れがグズグズに……相場あるあるです。
そんな不安定要素を、思いきって排除してください。
必要不可欠な銘柄入れ替えはしても、基本的には銘柄を固定、つまり「同じ銘柄を、ずっと追いかける」のが、うねり取りの基本です。そして、この覚悟が、百戦錬磨のプロたちと同じ土俵で勝負しても十分に勝つ可能性を生み出します。
プロの料理人になることを、想像してみてください。
今月はラーメン店、来月はイタリアン、その翌月は中華料理……これでは、客をうならせる味なんて出せませんよね。
狙う期間だけでなく、銘柄も固定して手堅い利益を出しつづけよう──これが、うねり取りの考え方なのです。
5.銘柄を固定すると予測が当たるのか?
銘柄を固定しても、相場の予測を当てる困難は同じです。
ザンネンですが……。
やはり、「上か下か」で考えれば、どんなときでも平均50%の的中率──この原則を踏まえて売買を組み立てていかなければなりません。
ただ、銘柄を固定している、つまりは、例えば「塩ラーメン専門」(作るでも食べるでも)みたいな感じで相場と向き合う姿勢が、大きな優位性を生みます。新しい銘柄や新しいやり方を試みる際のアウェイな感覚などなく、常にホームで勝負する点が、安定した結果につながります。
ちょっとストイックで、お遊び感覚の楽しみは捨てなければいけませんが、上級者の貫禄を身につけて、経験を積むほどにステージが上がっていく快感を求めてほしいのです。
それが、今回取り上げた「うねり取りの実践」です。
銘柄さがし、当たる情報さがしにエネルギーを費やす多くのライバルと離れた立ち位置で、特定の銘柄を相手に、「どこで出動するか」「どんな手仕舞いをするか」といった重要な行動指針に頭脳を振り向けるのです。
6.日柄観測の重要性
投資家は、株価の「水準」を気にする傾向があります。
売買する水準で損益が決まる、水準こそが重要──こう考えるわけですが、実は最もアテにならない要素なのです。
商品先物なら、実生活に直結する製品や素材が取引されるので、高すぎたら誰も買わない、安すぎたら生産者が困る……そんな事情もあり、「水準」という見方も一定の範囲で有効です。
ところが株価というのは、短期間で100倍になっても、逆に100分の1になっても問題がない、といえます。実際、ファンダメンタル(企業の分析結果)よりもマーケットでの「人気」が先行して変動しています。
その変動を、数カ月という単位で見ていこう、その数カ月単位の上げ下げに乗ろう(上げでも下げでもポジションを取って儲けよう)というのが、うねり取りです。
ここで、あなたが見る株価チャートについて考えてみましょう。
チャートというのは二次元、タテ軸が価格、ヨコ軸が時間(日柄)と、たった2つの要素で成立しています。
この2つの要素のうち、「価格」だけに目を向けてしまうのはキケンです。
価格が重要だと考える心理から「日柄」を無視しがちなので、意識して日柄を観察することがポイントですね。
下に、実際のチャートを示します。
日々の終値を直線で結んだシンプルな折れ線チャートですが、つい気にしてしまう短期的な上げ下げを無視して、2番目に示したような「トレンド」を見いだすのがコツです。
高値→安値→高値、と変化する際、必ず一定の日柄を要します。
「価格」と「日柄」、2つの要素を両方とも同じように扱うことで、トレンドが見えるのです。
「日柄を見ろ!」
この言葉を忘れないでください。
7.トレードの三要素 予測、対応、資金管理
多くの個人投資家は、「予測を当てる」ことに力を注ぎます。
たしかに、予測がビシビシ当たれば儲かるでしょうが、金融市場は不特定多数が競争している場なので、誰がどう頑張っても、「上がるか下がるか」という予測の的中率は50%前後におさまってしまうのです。
この事実に「道がない……」とガッカリしてしまうのですが、これこそが出発点なのです。
予測は難しい、株価をコントロールすることもできない──こんな絶望のなかに、「自由にコントロールできるものがあるじゃないか」という大発見があります。株価が動いたときの対応、次の一手は常に自分の自由なのです。
予測は当たらないという前提で臨みますが、予測がなければ何もできません。「ここから上昇だな」とか、「この銘柄がくるぞ」と考えてスタートしたあと、その後の状況(その後の値動き)を見て考えます。「見込み違いだ。いったん撤退だ」とか、「いい感じだな。株数を増やしてみるか」と自由気ままに対応していくのが現実です。
まずは「予測」がありますが、これに固執せずに状況の変化を分析し、新たな予測、それをポジションに反映させる“次の一手”を決めます。
「予測」と「対応=ポジション操作」という2つの要素で、「売買=トレード」が形づくられます。
あとは、全体の管理です。
余裕があるほどいいのですが、資金稼働率が低すぎたら意味がありません。といって、資金稼働率が高いと(ポジションサイズが大きいと)、予測もまずまずで対応もわるくないのに、相場のアヤ(ちょっとしたブレ)で大きくヤラレてしまいます。
「予測」 「対応=ポジション操作」 「資金管理=リスクの調整」
この3つの要素がからみ合って、売買の結果が決まるのです。
8.事件が起きない銘柄を選べ
前項では「対応が重要だ」と述べましたが、銘柄選びだって大切です。
「当てる」という観点ではなく、予測を当てるのが難しいから「対応」がカギ。
「やり方に合う銘柄を見つける」ことが課題なのです。
「株価は自律的に上げ下げする」と述べました。
各種の情報に慣れた人ほど、株価を動かす“材料”を求めますが、自立した立ち位置でコツコツとシブく稼ぐには、自律的な変動(うねり)を対象とするべきです。
(これがうねり取りの考え方、アドバンテージを生む発想です)
結論として、特別な材料が出現しない(しそうもない)銘柄が、うねり取りに適しているといえます。
こう言うと、「悪材料が出ない銘柄」と思うかもしれませんが、好材料もないほうがいいのです。例えば新薬の開発で大暴騰、みたいなことが起きないほうが、自律的な上げ下げが乱れず、うねり取りの戦略、値動きへの対応がやりやすいわけです。
一定の資本金と発行株数があり、企業の歴史もあって株主構成の大きな変化がなく、業績も安定している(大きく好転したり悪化したりしない)……つまり、“事件”が起きない銘柄が、うねり取りの対象です。
例えば、ちょっとした新製品が期待されたとしても、多角的なビジネス展開の一部門で、特別なインパクトがない、なんて感じです。
9.道具は、折れ線チャートと場帳だけ
さて、飛び交う銘柄情報とは無関係な場所で、いぶし銀の対応をコツコツ継続する──必然的に、日々の作業や売買ツールもシンプルです。
3カ月・6カ月の上げ下げを見るために日足を使用しますが、人気のあるローソク足は情報が多いので、終値を点で打ち、終値と終値を直線で結ぶ「折れ線チャート」がおすすめです。
これに、「場帳」を併用します。
終値を数字で書き込んだシンプルなものですが、チャートのように上げ下げが一目瞭然でない分、「自分の出処進退を自分自身で考える」効果が強烈です。
あとは、市場全体のすう勢をチェックします。
守備範囲の銘柄(手がける銘柄+候補の銘柄)は日足と場帳、そのほか適当な銘柄をやや幅広く、月足で観察します。
月足なので、手作業でも描き足しは月イチ、それほど手間はかかりません。
株価指数は単なる平均なので、月足で個別銘柄を幅広く観察して、株式市場全体の流れを把握しておきます。
こうして、道具を限定したり観察するデータを選ぶことで、雑多な情報に惑わされない、自立した売買判断がより強固になるのです。
10.区切りをつける
株式投資(トレード)が、スポーツなど他分野の競争と大きく異なる点は、「時間制限がない」ことです。
スタートもフィニッシュも決まっていません。
いつはじめてもいいし、おわりも自分で決めます。
こういうことから、下がってしまった持ち株について「売らなければ損じゃない」と強がって先送りして大損する、大損を確定するまで資金を寝かせてムダにしてしまう……こんな悲劇が起こります。
この逆をやるのが、職人の売買です。
でも、とくに苦しい思いはありません。
狙う期間が「3カ月・6カ月」と定まっているのですから、「夕方になったら帰宅する」ように、時間が経過したら結果にかかわらずポジションを閉じればいいのです。
こうして区切りをつけることを前提にポジションを取ることで、つまらない意地を張ったりすることがなくなります。また、スタートも丁寧かつ慎重になります。
想定した期間で区切りをつける──あらゆる売買(トレード)に共通の大切な発想です。
さて、これで前編は終了です。
まずは、うねり取りの古典的な考え方をサクッとまとめて説明しました。
「もう少し詳しく!」と思うなら、私の著書を読んでください。