前編 手描きチャートがオススメのワケ
1.手描きチャートの効用
売買に使うチャートは、大きな紙に手描きすることをおすすめします。その理由は、以下の2つです。
まず、タテとヨコの縮尺の問題です。一般的に使われる、チャートブックやパソコンを利用して画面表示するチャートを考えてください。
例えば、安値圏で小さく往来している銘柄があったとします。チャートブックの印刷範囲、またはパソコンの表示範囲には、その小さな往来が、決められた枠の中に表示されるように位取り(くらいどり)されます。
次に、その銘柄が急騰したとします。この場合、印刷範囲(表示範囲)に入れる期間はずれますが日数は同じまま、大きく動いた値幅をおさめるためにタテ方向を縮めてしまいます。
どうなるでしょうか。急騰前と急騰後では、タテ(価格)とヨコ(時間の経過=日柄、ひがら)の比率が大きく異なってしまいます。
タテとヨコの比率が変わると、どうなるのか──実際の例を見てみましょう。
下に示すのは、ある銘柄が安値の往来から急騰する、2年半の値動きです。
次に示すのは、上のチャートに示された値動きのうち、赤い枠で囲んだ2年間の動きと、期間を半年ずらした緑の枠で囲んだ2年間の動きを比較したものです。サイズは同じですが、タテ方向の価格の取り方が異なっています。
急騰したことによってタテ方向を縮めたので、右側のチャートでは安値の往来がすごく小さい幅にしか見えません。
タテとヨコの比率が異なっても、上げと下げがひっくり返ってしまうようなことはありません。しかし、急騰前の往来は、急騰後には極端に小さな動きに見えてしまいます。
チャートは、タテとヨコの2次元です。2次元で表現したものを、視覚的、直感的にとらえるためのものです。タテとヨコの比率がその時々で変化してしまうようでは、ダメなのです。顔写真でいえば、面長なのか丸顔なのか判断がつかないということです。
タテとヨコの比率が銘柄によって異なる場合、上げトレンドや下げトレンドが「急激なのか緩やかなのか」を判断することができません。
チャートは、見た目だけで感覚的に値動きをつかむためのものです。規格が統一されていないチャートを個人の感性によって眺めるのは、明らかな矛盾です。
手描きチャートをすすめるもうひとつの理由は、人間の「創造性」を利用するためです。
株式市場の価格情報は、世界中の投資家にとって平等に与えられるデータです。しかし、そこから生み出す売り買いの判断などは、人間の個性と創造性によるものです。この部分で勝ち負けが決まるのです。お手軽な方法で値動きを見ても、競争には勝てません。
競争に勝つためには、より頭を働かせることです。自分で描いたチャートを広げ、ペンを持ちながらその次に描き足す線を想像し、価格データを見て線を引く──こういう泥くさい作業の重要性には、想像以上のものがあると思います。
パソコンやスマホを駆使することで、短時間で大量の情報に目を通すことができます。また、大量の情報から必要なものだけを拾い出すこともできます。
現代の情報戦において、とても大切な部分です。
しかし個性や創造性を発揮しないと、情報を入手するだけで終わってしまう可能性があります。情報をインプットする目的は、その情報を基にして、売り買いの判断など独自の情報をアウトプットすることです。
チャートを手描きすることは、決してムダなことではありません。一見ムダに思える動作を加えることで、大切なアウトプットの機能を刺激する、とても意味のあることなのです。
2.チャートと変動感覚
チャートを見たときの創造的な感覚を「変動感覚」と呼んでいます。前項とテーマは同じですが、別の角度から説明してみたいと思います。
株式の売買は大切なおカネにかかわることなので、オトナとして慎重になります。理屈が先行して情報のインプットに偏るのが普通です。
このとき、インプットに偏ることよりも問題なのが、カンタンに手に入る情報の多くが、実践家向けではないということです。
メディアが発信する情報はズバリ、売れる情報です。言い換えると、大多数の人が手軽に処理できる情報、スポーツ中継の解説のようなエンターテイメント性がある情報なのです。
野球の解説をラジオで聞きながら采配を振るう監督はいません。プロゴルファーが録画しておいた試合を観て、解説者の言葉から練習のテーマを考えることもないでしょう。
株式市場や商品先物市場のニュースや解説も、読んだその場で「明日もこの欄を見よう」と感じさせるための情報です。メディアの批判ではありません。構造的なことです。
前項でも述べたように、競争社会における活動では、独自性を発揮するためのアウトプットが大切です。売買で儲けようとする立場、つまりプレーヤーとしても、欠かせないことなのです。
プレーヤーは、常識的な知識をベースにして、そこから先は独自のものを創り出していきます。自分のおカネを自分の手で動かすのですから、自立したプレーヤーとしての工夫をしてください。
真剣に臨めば、独自の変動感覚が発達し、周囲の情報に惑わされないで考える姿勢がつくられていくはずです。