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第1項 大局観を確認する ~林はこう見る~

安倍総理辞任 ~ビッグイベントに投資家はどう対応するべきか~

 

在任期間が歴代最長に達した安倍晋三首相が8月28日、辞任の意向を表明しました。厳しい仕事をやらせておいて勝手なことを言う輩も多いのですが、まずは「安倍総理、おつかれさまでした」と敬意を表したいと思います。
 
さて、9月半ばには新総理が決まるもようですが、投資家としては今回の変化をどう認識するべきか──実践的な見地で私見を述べます。

 

第1項 大局観を確認する ~林はこう見る~

 

1.強気継続

 
安倍首相が健康問題を理由に辞任を発表──単純に混乱と捉える向きもあるのですが、「秋に衆議院の解散・総選挙で野党つぶし」との評価が現実的でしょう。つまり、安倍首相が敷いた“株高を大切にする”経済路線は、問題なく引き継がれるということです。
 
リーマンショック以降に流れがつくられた、金融市場の維持、株高による経済成長を狙う路線が変わらない、という単純な論理です。
 
次期首相の候補に挙がっているなかで、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長は財務省寄りの緊縮財政派といわれます。次の首相によっては緊縮路線へ逆戻りすると懸念する声もありますが、くしくも、新型コロナ対策で財政出動を緩めることはできず、マーケットには不安要素はありません。
 
自民党若手議員などの間にも、財政緊縮を押しつける財務省の洗脳を振り払って政府支出を伸ばすべきという声が強まっています。
 
政府は、あらためて日本の金融市場への資金流入を狙うべく、関西圏と福岡県を候補地に挙げ、外資金融機関の誘致に乗り出す方針を固めています。
 
「国際金融センターの創設」というアイデアは、構想だけで前進しなかったという過去を思い出すだけかもしれませんが、今回は真剣に取り組む気概を感じています。対中貿易戦争でアメリカと協調路線を進む日本が、経済面と金融面でアジアの主導権をとるべく前進する政策は、今後さらに評価を高めるのではないでしょう。
 
実際に、中国共産党が「香港国家安全維持法」を成立させて“一国二制度”を完全に否定したことから、香港市場の資金は日本市場へ流入しはじめているといえます。新型コロナの被害が極めて少ないアジア圏、そのなかで産業基盤が盤石かつ金融マーケットの規模が大きい日本が注目されるのは自然なことです。
 
すでに、安部晋三氏の病状改善後は「第三次安倍政権」との声が聞かれます。
アメリカとの同盟関係を強め、世界の信任を得た安倍政治がすぐに終わることはなく、メディアによる“批判のための安倍批判”が不可能になり、安倍氏の復帰も視野に入れた政治の路線が展開されることも、十分に想像できる未来です。
 
第1項は大局観を示しますが、そのなかで具体的な値動きも示して説明をつづけます。

 

 

2.株価指数じゃないよ!

 
安倍首相の辞任が報じられた8月28日(金)、日経平均は急落をみせました。前項で述べたように考える私には不思議なマーケットの反応でしたが、「とりあえず売っておく」という行動なのでしょう。
 
そして週明けの8月31日(月)、この原稿を書いている現在(31日、前場)、日経平均は400円超の値上がりで、先週金曜日の下げ幅を完全に埋めて上昇しています。
 
しかし、こういった短期間の値動きで、「だから、首相交代で株価は○○」といった情報に耳を傾けてはいけません。安っぽい後講釈、読む価値のない(本当はマイナスの価値しかない)“その場限りの読みもの”です。
 
そもそも、東京証券取引所には3,716銘柄が上場しています(8月31日現在)。そのうち、たった225銘柄の平均が「日経平均株価」なのです。最上位の東証一部全銘柄(2,171銘柄、8月31日現在)の平均値を計算したTOPIX(東証株価指数)のほうが「実態を表している」といわれますが、これだって単なる“平均値”です。
 
株価指数という平均値が、安倍政権下で大きく上昇しました。総じて「株が買われた」ということに間違いはありませんが、私たちが目を向けるべき個別銘柄は、指数とは全く異なる動きをしています。
 
次項で、個別銘柄の値動きを示しますが、その前に、一般的な投資関連情報が、その場限りの相場解説で一般投資家を“煙にまく”ものだということを認識するべきです。
 
個人投資家は、自らの大切な資産を市場に投じている、独立したプレーヤーです。売買することを禁じられた経済記者の記事に、うっかり同調すれば、自らの手で自らを煙にまく愚を演じることになるのです。
 

 

3.中身のない“アベノミクス論”

 
アベノミクスはどうなるか──日経平均だけを取り上げてメディアが延々と論じてきましたが、前項で述べたとおり、個別銘柄の動きはマチマチなのが現実です。
 
下に示すのは、FAI投資法(低位株に分散投資する、林投資研究所の売買手法)で選定した個別銘柄のひとつ、5269日本コンクリートです。
 
 
この値動きから、2つのことを明言できます。
 
(1)個別銘柄と株価指数は別の動き
 
私たちは、独自の分析により、2010年にこの銘柄を選定しました(A)。そして、思惑どおり、翌2011年から上昇がスタートしています。世間でいう「アベノミクス相場は2012年末にはじまった」というのは、さきほど否定した「株価指数だけを見た表面的な解説」だということがわかります。
 
また、2014年には800円近くまで上昇したので(B)、私たちの選定は大成功だったわけですが、その後も日経平均などの株価指数が順調に推移するなか、現在の200円台まで下げ傾向が継続しています。
 
(2)株価の上昇はこれからか
 
日本コンクリートは現在、業績に光るものがありません。それでも、PBR(株価純資産倍率)が0.43倍といった数字から、いわゆる“割安”な位置にいるといえます。5年超も下げつづけていることから、「十分に整理が進み、小さいながらもきっかけがあれば再び上昇傾向に移る」と期待して観察しつづけています。ほかにも、同じような観点で注目に値する銘柄は多く散見され、これからの株式投資で個人投資家がじっくり取り組める可能性を強く感じています。
 
私たちは、この銘柄選定のため、月に1回必ず集まって討論しています。
日経平均を取り上げた雑な分析(そもそも分析になっていない)を排除し、個別銘柄の長期的なトレンドを観察しています。それこそが、個人投資家が見るべき「マーケットの事件」だからです。
 
次項でも、具体例を挙げます。

 

4.買う理由

 
株を買う理由は当然、将来の値上がりを期待するからです。
ただし、その見通しに至る根拠はさまざま、いろいろな価値判断があり得ます。
 
例えば、前項で挙げた日本コンクリートは「下げたから買う」というアプローチですね。でも、「下がらないから買う(もっと上がる)」という考え方も、同じ低位株投資のなかで成立します。
 
下に示すのは、やはり私たちが選定した、2533オエノンホールディングスです。
 
2533オエノンホールディングス
 
2014年夏、200円台で選定しました(A)。
ドンピシャのタイミングではなかったのですが、2016年後半から本格的に上昇しはじめ、2018年には500円超までありました(B)。これも、問題なく成功した例です。
 
いったん天井を打ったのですが、その後も深く押すことなく保合をみせています。
コロナ騒動で多くの銘柄が売りを浴びた2020年3月も300円を割ることなく(C)、再び400円前後の水準を維持しています。
 
いつまで保合がつづくかを当てるのは至難の業ですし、何らかの理由であらためて下落トレンドが発生する可能性もあります。しかし、「下げない」ことを理由に、私個人は注目しています。

 

5.自分自身の見通しが最優先

 
もっと多くの事例を挙げたいところ、長くなってしまうので割愛しますが、私たち個人投資家がプレーヤーとして注目すべき個別銘柄の値動きを例に、実践的な観察を示しました。私の強気論を支える、実際の値動き事例です。
 
政治と株価は必ずしも一致しないというのが持論ですが、現在のように積極的な金融政策がある状況では、政治の動向も無視できない要素です。また、安倍政治が果たした役割と、日本の経済・金融について道筋をつくったことも高い評価に値します。
 
とはいえ、多くの投資家が真剣に考えて株を売り買いしている結果、現在の株価が世界の総意、「すべてが株価に反映されている」と考える実践論が成立し得るのです。
 
この点を忘れず、常に自分自身で確固たる見通しを立てることが重要です。
 
「将来を当てる」ことは投資家の切実な願いですが、明日の株価を知っている者はどこにもいません。したがって、「確信ある見通しと戦略」を軸に、その後の推移を見てズレを修正しながら「次の一手を考えていく」ことこそが実践、株式投資のキモなのです。
 
例えば、驚くような悪材料が出現したのに株価が下がらない、それをきっかけに上げトレンドが発生することだって珍しくありません。業界では、「悪材料出尽くし」と説明する現象です。
 
どんなことが起きるかわからない、だから、基準となる見通しと、遅れずに軌道修正する実行力が求められるのです。
 
 
とりあえず、安倍首相の辞任に際して急ぎ第1項をつづりましたが、この先も、実践的な立場から相場を考えていきます。お楽しみに!
 
 
 
 

↑ 8月31日夜に収録した新番組「投資の作法」です。

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