2項では、投資家の恐怖心を刺激しただけの「二番底懸念」を批判しましたが、「“二番底”という視点は大切」とも述べました。
「天井も底も2回ずつ」といいます。
“二番底”という視点が有効な状況を紹介しながら、個人投資家にとって実行しやすい低位株投資、わかりやすい選別投資の方法を解説します。
Contents
アフターコロナの株式投資 第3項
1.これが二番底だ!
百聞は一見にしかず、まずはチャートをご覧ください。
これは、東海カーボン(5301)の長期波動です。
月足なので、1本の足で1カ月、示した期間は約11年です。
全体の流れは、次のとおりです。
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- 大きく下げて安値圏に達した
- 何年も底練りして「因果玉」の整理が進んだ
- 再び大きな上げトレンドに移行した
さて、この安値圏の推移に、「一番底」「二番底」を見いだすことができます。
実践的な考察で、2つの見方を示しましょう。
まずは、赤い丸数字の「1」「2」「3」について説明します。
とりあえず安値圏に達した09年が一番底、再び下げて最安値をつけた12年が二番底、底練り末期(上げ直前)の16年が三番底、という見方です。
こう定義した場合、底練り期間はなんと7年間強におよびます。
2つめの見方は、青い丸数字で示しました。
「09年はまだ下げの途中」と定義して、必然的に12年が一番底、16年が二番底ということです。
この場合でも、一番底と二番底の間は約4年とけっこう長いのです。
これが、「二番底」が現れる、わかりやすい事例です。
もっと短期で二番底が出現することもありますが、少なくとも2020年3月に極端な突っ込みの安値から切り返す過程で二番底を考えるのは時期尚早、誤りだったと評価して問題ないでしょう。「どれだけの期間で考えているのか?」と疑問符がつく意見だったのです。
2.プロは個別銘柄の動きを見る
第2項では、「日経平均で考えるな」という見出しで、“まずは日経平均をチェックする”一般投資家の姿勢を否定しました。日経平均の計算方法について「安易だ」とも述べました。
実際、個別銘柄の値動きを見ると、見事なほどにバラバラなことがわかります。
例えば、コロナショックで株価が下げたあと、多くの銘柄が値を戻しています。その様子は日経平均の水準でおおよそ確認できますが、日経平均と同じように上昇している銘柄もあれば、ちっとも動きをみせない銘柄もあります。
こういったバラツキは、前項で示した月足で観察すると、とてもわかりやすいのです。
低位株投資の手法「FAI投資法」をもとに私たち(林投資研究所が主宰する「FAIクラブ」)が買い選定(2010年3月)した銘柄を、実例として挙げます。
上のチャートは、日本コンクリート(5269)の月足です。
この銘柄の推移と、世間が語る「株価の推移」(日経平均がベース)を比較して考えてみましょう。
日経平均は、大ざっぱに言うと、2012年末から上昇をつづけ、2018年からは保合です(2020年3月にコロナショックで下げましたが、戻しています)。
でも、日本コンクリートが動きはじめたのは2011年で、約半年の周期でジグザグを繰り返しながら2014年に天井を打ち、その後は(上げ下げの振幅はあるものの)現在まで下落トレンドを描いています。
「株式市場は……」とひとくくりにして日経平均を見ていると、あっという間に盲点だらけ……あなたの身になってくれずに手数料を取るだけの業者に、まんまと乗せられるだけではありません。余分な価値判断などないシンプルな株価情報を見ても、自らの錯覚によって混乱してしまいます。
アフターコロナの株式投資、第4のキーワードは、『ちゃんと個別銘柄の動きを見る』ことです。
個別銘柄を見る──大切なことなので、次の項も同じテーマで解説します。
3.日経平均と個別株
前項で取り上げた日本コンクリートが、日経平均と全く異なる動きをしていることを確認しました。
ここで、「日経平均採用の225銘柄だったら、同じような動きではないか」という疑問が出てきそうですが、そうでもないのです。前々項で挙げた東海カーボンは日経平均採用銘柄であるにもかかわらず、日経平均がしっかりと上昇した2013年以降も全く動かずに底値圏で往来し、2016年のおわりから大暴騰しています。
ちなみに、この東海カーボンも、私たち(林投資研究所が主宰する「FAIクラブ」)が買い選定(2015年5月)して成功した銘柄のひとつです。
とにかく、個別株の値動きは、おどろくほどバラバラです。
「まずは日経平均をチェックする」といった習慣があったら、すっぱり切り捨ててください。日経平均の騰落から「上昇」「下落」のどちらかを見出しにつける市況解説も、まともに読まないでください。
日経平均、東海カーボン(日経平均採用銘柄)、日本コンクリート・・・
この3つを比較するチャートを作成しました(下図)。
すべて、スタートの2011年1月の値を「1」にそろえてあるので、それぞれの変化がわかります。
日経平均も、個別株の東海カーボンおよび日本コンクリートも、2011年1月と2020年6月末を比べると「おおよそ2倍弱になっている」ことは同じですが、途中の上げ下げは全く異なります。
4.株価の変動周期は長い
株価のニュースは毎日、「日経平均の動き」を軸に報じられていることが問題なのですが、ニュースにはもうひとつ、大きな問題があります。1日を区切りにするため、読み手が、値動きを「日」単位で考えてしまうのです。
「1日」というのは、大切な区切りです。
朝起きて仕事に出かけ、帰宅して夕食、そして就寝前に入浴……言うまでもない1日単位のルーティーンがあるからです。
株価変動についても、「今日は高かった」とか「明日も高いかな?」などと、「日」単位で考えるのが自然です。
株価のニュースも、この感覚に合わせてつくられています。
いきおい、市況解説も、「日」という区切りで極めて短期的な内容に仕上げられます。
「寄付では海外の株高を受けて買われたが、後場に入ると○○が……」という感じで、その日だけを切り取ります。出来上がるのは、スポーツ記事のような“その場限り”の読みものです。
しかし、実際に株を売買する平均的な投資家が、「1日」という短期間で行動しているわけはありません。たいていは、短くても数週間から数カ月、銘柄によっては年単位でポジションを持っているはずです。
この実際の行動と、ふだん手に入れて気にかける投資関連情報は、「時間軸」に差がありすぎるのです。
さきほど示した2つの銘柄、東海カーボンと日本コンクリートの値動きを見てわかるように、株価の基本的な変動サイクルは、とても長いのです。その一部分の小さな上げ下げに注目して売買するのが平均的な投資家なのですが、「投資関連情報を販売する」ためにつくられた1日単位の読みものは、そんな事情に関係なく超短期間に焦点を当てています。
そもそも、話がかみ合うはずはないのです・・・
ちなみに、数時間の変動を対象としたデイトレード(長くても数日)を得意とする個人投資家もいますが、そういう人たちは、私が批判的に述べたような、ざっくりとした投資情報など見ていないでしょう。
5.月足を見よう
投資家に人気がある株価チャートは、日足または週足だと思います。
理由はなんでしょうか?
金融業者は、顧客である投資家を「飽きさせない」ことを重視します。
どれだけ真面目に、真に有益な情報をまとめても、ウケがわるいのが現実です。
例えば、スーパーの総菜売り場を見てもわかります。
健康的な料理ばかり並べても売れないので、パンチの効いた揚げ物などが目立ちます。私も、つい揚げ物に手を伸ばしてしまいます(笑)。
体にわるい食べ物(害になる情報)のほうが、おいしくて(おもしろくて)、需要がある(投資家に人気がある)のです。
これは、業者の悪口ではありません。
投資家が求めるものに応えている面もあるので、まさにニワトリと卵……業界の構造、投資関連情報の宿命といったことだと認識してください。
ちなみに、週足はちょっと中途半端で素人だまし的なところが気になるのですが、日足がダメと考えているわけではありません。ただ、株価のサイクルは長いのに「月足」の利用が極めて少ない、そもそも「月足を見よう」という発想がないことが問題なのです。
さきほど示した2銘柄の月足を見てわかるように、株価の基本的な変動サイクルを観察できるのは「月足」です。月足を使うだけで、大きな視点をもつことができるのです。これを利用しない手はありません!
月足を見ながら、例えば「3年間は上昇がつづく」と見通しを立てれば、さまざまな雑音をはね返す独自の戦略が整います。予測不能のショック安があっても、多くの投資家が目先の情報を集めて狼狽するなか、自分自身の戦略でゆっくりと行動できます。
どんな分野でも、つい近視眼的になることで錯覚が生じます。
投資においては、株価変動によって生じる損益が「カネの増減」に直結する生々しい情報なので感情的になります。
そんな不要な感情も、月足で長期の流れを見ることで、かなり抑えられるのです。
アフターコロナの株式投資、第5のキーワードは、『意識的に長めの期間を見る』ことです。
第3のキーワードとして挙げた『投資の時間軸』を、自分で決めて狂わせない工夫が求められるからです。
6.長期波動を軸にするFAI投資法(低位株投資の手法)
この項は、林投資研究所が30年以上にわたって取り組んでいる低位株投資の手法「FAI投資法」(エフエーアイ)をもとに解説しました。
例えば、「3年かけて下げ、5年間の底練りをみせている」銘柄について「これから3年以上は上げトレンドがあるのではないか」と考えて銘柄を選びます。
ファンダメンタルも、誰もがわかる一定の範囲で分析します。
ただし、断面的に「PER(株価収益率)が○○倍」とか、短期的に「今期の予想が上昇修正」と観察するのではなく、やはり長めの期間でどう推移しているかを、時系列データで冷静に見ます。
その結果、次の2つが両立します。
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- プロの視点による銘柄選定
- 個人投資家が好む“銘柄選別”の“分散投資”
私たちが選定した銘柄や見通しは『研究部会報』に掲載していますが、少し興味をもった段階では「まず、どんな手法なのか、もう少し知りたい」と思うでしょう。