売買を実行するうえで、とても大切なのに忘れがちなのが、「どんな道具を使うか」という観点です。
株価や関連データの分析方法や評価の仕方は、人によってちがいます。
つまり、どの部分をどう分析するか、どうやって具体的な売り買いに結びつけていくか、という方法論です。
今回は、多くの人に共通するテーマを取り上げました。
ずばり、「“使える”投資法/トレードシステムを見分ける7つのポイント」です。
わかりやすくするため、具体的な売り買いにつながる直接的なツール、いわゆる「売買システム」に焦点を絞りますが、裁量が中心の売買法も含めて、大切なポイントは同じです。
売買のルールを、すべて自分でつくり上げるのは難しいので、既存の投資法(売買法)を選ぶケースが大半でしょう。でも、なんとなく選んでしまうと、その方法をうまく使いこなすことができません。サイアクなのは、手法として致命的な問題があることに気づかず、宣伝文句に踊らされて盲信してしまうことです。
よい投資法、機能する売買システムの条件はなにか?
完成度の高いルールはどんな構造なのか?
宣伝や説明のどこを見てホンモノかどうかを見分けるのか?
これらについて、「プロの常識」を当てはめて解説します。
Contents
後編 ”使える”投資法/トレードシステムを見分ける7つのポイント
4.バックテスト期間に大相場(上げ下げ両方)が(できれば)複数含まれる
私たちが投資法(トレードシステム)を考えるとき、過去の値動きを未来に投影します。
つまり、「この値動きパターンが多いから、将来も同じことが起こる確率が高いだろう」と想定するのです。
まるで未来を見てきたかのように相場を語る自称プロがいますが(メディアで目立つのは、この種の人たち)、タイムマシンはまだ開発されていないので、よほど卓越したファンダメンタル分析をするか、過去の動きで売買ルールを決めて実践に臨むしかないのです。
(この読みものでは、値動きを考える“テクニカル分析”に絞って進めます)
チャートを見て売買判断を行う「テクニカル分析」には、『三原則』があります。
そのひとつが「歴史は繰り返す」、「過去の値動きパターンは再現されるんだ」という考え方です。
売買ロジック(ルール)を固める段階でも当然、過去の動きを利用します。
「過去10年間で、これだけの利益になる」→「未知の未来でも利益になるだろう」
この考え方が、投資法(トレードシステム)を成り立たせるのです。
さて、感覚が中心の裁量売買ではなく、カチッとした数式を利用するシステムトレードなら、大量の過去データを使って検証することが可能です。「バックテスト」と呼ぶ作業です。
このバックテストでは、一定以上の期間を検証しないと、“信頼”に値する情報を得られません。1回よりも2回、2回よりも4回……サンプル数が多いほど信頼度が高まるのは当然です。
だから、1年や2年のデータで「ほら、こんなに儲かる」といった広告宣伝には、警戒しなければいけないのです。
林投資研究所には、「中源線建玉法」(ちゅうげんせんたてぎょくほう)というい名前の売買手法があります。もともとは一匹狼の“相場師”が好んでいた「うねり取り」、つまり、銘柄を限定して数カ月単位の上げ下げを取るトレード法を、値動きを機械的に判断して実施するためのツールです。
実践者の生身の感覚に合致するシンプルなルールが、多くの愛好者を生んでいるのですが、数式化されたルールで「バックテスト」を行うことが可能です。
私たちは2015年、インターネットで情報公開する『中源線シグナル配信』をスタートするにあたって、最長で31年間の過去データ(すべての個別銘柄)を検証しました。その作業の中で、数々のおもしろいデータを見つけたのです。
例えば、31年間のトータルでは「十分に機能する」といえる利益が出ているのに、細かく見ていくと「80年代バブルの上げでボロ儲け、あとは鳴かず飛ばず……」というように、時期によって大きく偏る銘柄もあったのです。
数式化されたトレードシステムは、「ブレが生じない」ことが大きな利点ですが、計算ちがいが放置されると、とても残念な売買結果を、気づかないまま出しつづけてしまいます。
“使える”投資法/トレードシステムを見分けるポイント、4つめは、「バックテストの期間が長い」ことです。
理想は、その検証期間に、大きな上げ相場あり、大きな下げ相場あり、さらに可能なら、それぞれが複数あることです。
5.勝率と利益率について
相場の勝率は、実際にどれくらいでしょうか。
「勝率」という数字をはじき出すための、具体的な方法を掘り下げるのが趣旨ではありません。単純に、手仕舞いしたところで「プラスになったかマイナスになったか」という観点です。
これからの株価変動を「上か下か」でシンプルに考えたら、予測の的中率は50%、勝率も50%と結論づけることができます。
でも、上がると思って買った、10年後に5%上がった……これを「当たり」と呼ぶことはできません。実際のトレードで想定するのは、「期間」と「値幅/変動率」の両方です。
例えば、「3カ月以内に、少なくとも20%上がる」といった“想定”をもとにポジションを取るのが現実のトレードでしょう。
すると、その3カ月間で「動かなかった」(保合がつづいた)場合は?
「当たった」とは言いにくいはずです。
上がる想定で買いポジションを取った結果は、「上がった」「下がった」「動かなかった」の3つに分けられ、そのうち1つだけが「当たり」……こう計算したら予測の的中率は33.3%です。
さらに、「20%上がる」という予測に対して実際には5%の上昇だったら、利益は出ますが「予測どおりだった」とは言いきれません。厳密にはハズレ、少なくとも「当たり」ではありません。
こうして現実を整理して考えると、なんだかネガティブな気持ちになるかもしれませんが、成功を支える“ポジティブな気持ち”とは、誤った思い込みで現実を誤解することではありません。相場の世界は厳しい、高い勝率を目指すなんて非現実的、と認識することが大切です。
では、例えば「脅威の勝率90%!」なんて宣伝文句のトレードシステムは、どういうカラクリなのでしょうか?
2つの可能性があります。
ひとつは、単に「ウソ」をついているだけ。
次の項で述べる「カーブフィッティング」が最も多い“商業的ウソ”でしょう。
もうひとつは、「勝率が高いけど利益率は低い」という、なんともトホホな内容です。
利益のときも損のときも値幅が同じなら、勝率51%(負けは49%)で勝つことができますが、「小幅の利益」に対して「負けの値幅はそれなり」だったら、勝率がかなり高くても実際の利益率はあっさりマイナスになります。
第2項「利益を伸ばす工夫がある」でも触れましたが、「小幅利食い」=「手堅い」ではない、という事実が浮かび上がります。また、多くの人が気にする表面的な数値である「勝率」に惑わされないよう注意しなければならない、ということです。
予測が曲がれば(外れれば)、利益は出ません。でも、大きな損が出るとは限りません。適切な判断で、損失(必然の負け、トレードの経費)を抑えることができます。そして、予測が当たったときに適度なねばりを実行できれば、たとえ勝率が低くてもトータルでプラスになり、プロが考える「損小利大」を実現できるのです。
林投資研究所の『中源線シグナル配信』で、最長31年の過去データを検証した結果、東証一部銘柄では過去20年の平均で年率20%以上、私たちが選定した98銘柄(2019年12月現在、94銘柄)では過去10年の平均で年率60%以上の利益率が確認できました。
その時々の対応によって結果(損益の額)をコントロールすれば利益が期待できることが証明されたのですが、「勝った負けた」のいわゆる勝率は50%を少し下回っていたのです。多くの実践家が言及しているように、表面的な数字である「勝率」には意味がないケースがとても多いはずです。
“使える”投資法/トレードシステムを見分けるポイント、5つめは、勝率ではなく「利益率」につながる説明があるかどうかです。
6.過度なカーブフィッティングに気をつけろ!
知識なしで「カーブフィッティング」という言葉を聞くと、ポジティブなことを思い浮かべるかもしれません。「うまくフィットさせる」というイメージです。
でも、カーブフィッティングとは、売買ルールの調整をするうえで“よくない偏り”を指します。
売買ルールの調整とは、基準の細かい設定を動かして適正化することです。
「チューニング」という表現でもいいと思います。
例えば、「直近の動きから上に放れたら買う」という順張りトレードを思いついたとします。そうしたら、明確な数式にするために、「上に放れた」状況をカチッと定義します。
基準となる価格帯を定義することも必要ですし、その価格帯を「終値で○○円上抜く」といった具体的な判断ルールも定めます。
この定義に使う数字を、大きくしたり小さくしたり、試行錯誤しながら「最も適正な設定はどこか」を考えます。
この作業の中で、ついやってしまうのが「カーブフィッティング」なのです。
未知の未来に対してポジションを取るのがトレードなので、不測の事態を想定する、つまり、期待どおりにならなかった場合を考えて“ゆるめ”にしておかないと、基本的な発想が正しくても結果が出ない可能性があります。
ところが、検証に使った直近のデータ、例えば過去6カ月、あるいは過去1年で「利益が最大になる」設定を未知に未来の使ったらどうなるか──「歴史は繰り返す」という前提で未来の株価変動を考えるのですが、あまりに狭い範囲でガチガチに定義してしまったら、実用性のない売買ルールに仕上がってしまいます。
カーブフィッティングとは、「過度な最適化」です。
たまたま道ばたで1万円札を拾ったからといって、その後ずっと1万円札を探しながら歩くようなバカげたことを、トレードルールの設定でついやってしまうのが人間の心理です。
自らの手でルールをつくり上げる作業でも、既存の投資法(トレードシステム)の設定を工夫する作業でも、つい“カーブフィッティング”をやってしまうのが、生身の人間なのです。
ましてや、数多くの投資家をターゲットに販売しているものは、カーブフィッティングが強い可能性があります。現実の実用性を無視して意図的にカーブフィッティングを行い、“ピカピカに光る”見栄えを演出しているケースもかなり多いでしょう。自然に生まれる“商業的ウソ”というやつですね。
“使える”投資法/トレードシステムを見分けるポイント、6つめは、カーブフィッティングがないかどうか──基本のロジック(根底の考え方)が素晴らしくても、設定がわるければ結果につながりません。また、基本のロジックがダメでも、設定をいじることで「儲かる結果」をつくることが可能です。
なかには、値動きに合うルールを最初からつくって「ほら儲かる!」なんて宣伝しているヒドいものもあるのです(前述の「1万円札」の例と全く同じ)。要注意!
7.ブラックボックスは論外
「ブラックボックス」という言葉には、いくつかの意味がありますが、ここでは「中身を見ることのできない公式」を指します。
例えば、身近にある家電品は、内部の構造や動作原理を知らなくても使えます。
つまり、ちゃんと動いて結果を出してくれます。
つまり、「知らなくても動く」というポジティブな意味のブラックボックスですが、今回示すのはネガティブな意味で、「本当は見えたほうがいいのに、秘密になってしまっている」という状況です。
市販の売買ツールは通常、ルールをすべて公開したりしていないでしょう。
料理のレシピならば「同じものを作る腕前があるならどうぞ!」とオープンにしている可能性もありますが、研究して探り当てた、「売り」「買い」を判断する数式を公開したら、誰だってマネできます。そのソフトの売上は永遠にゼロです。
とはいえ、いったいどんな考え方に基づく売買法なのか、どんな発想を数式に落とし込んでいるのかなど、概略を想像することすらできない売買法(システム)には、致命的な問題があります。その問題点は、以下の2つにまとめることができます。
1.結果しか見ない
内容がわからないので、使った結果「勝った」「負けた」と一喜一憂するだけ……百戦百勝の予測法など存在しないので、ほとんどの投資家は、ブラックボックスに対する過度な期待を大きくした悪結果に「これは儲からない……」と考え、使うのをやめてしまいます。
2.ステップアップの可能性がない
前述したように、1回ごとの売買結果で一喜一憂すると、「その手法を土台にステップアップする」(技術を向上させる)可能性が見えません。
結論を述べます。
ブラックボックスがある投資法(トレードシステム)を使うと、偶然の利益が期待できる以外はマイナスの結果しか想像できません。
“使える”投資法/トレードシステムを見分けるポイント、最後の7つめは、「ツールとしての位置づけが明確なこと(ブラックボックスは論外)」です。
すべてをさらけ出していなくても、この手法は「これこれ、こういう哲学で組み立ててあります」と、まっとうな説明があるかどうかをチェックすべきです。それなしに“ピカピカの宣伝文句”だけのものは、新規の購入者を探しつづけるビジネスモデルなのでしょう。
ちなみに、林投資研究所が提唱する中源線建玉法(ちゅうげんせんたてぎょくほう)は、ルール(強弱判断と3分割売買のタイミング)をすべて公開しています。
そのロジック(判断の哲学)は、とてもシンプルながら、“プロの思考だ”という自負があるだけでなく、「投資法を学ぶ」ことを軸に据え、そのプロセスを実践者に伝えることを大切にしているからです。
しかし、「ファンドを買うとき、銘柄選定や売買タイミングの詳細を確認できるのか?」なんて反論もあると思います。たしかにそうですが、完全に“正体不明”のファンドなんて、買いませんよね。AI(人工知能)をテーマにしているとか、高配当銘柄を対象にするとか、そのファンドの“狙いどころ”を確認して購入を決めるはずです。
投資(トレード)は、命の次に大切な資産をリスクにさらす行為です。
「すぐに儲かる」とか「労せずして巨万の富」なんて、現実を無視した安っぽい宣伝文句で、進む道を決めてはいけないのです。